山あげ祭

 週末、となりの那須烏山市の『山あげ祭』に行ってきた。那須烏山市在住の知人に誘われ馬頭の知人ご夫妻のクルマに同乗して、である。ということはお酒が飲めるということだ。田舎暮らしでは移動手段がクルマのため出先でお酒が飲める機会がほとんどない。
 烏山の知人のご案内でまずは「東力士」で有名な酒蔵、島崎酒造へ。店内の奥へ進むと同酒蔵のおもなお酒が居並ぶ特設試飲コーナーが設けられていた。はやる気持ちを抑えつつ足を踏み入れると試飲用のグラスが差し出される。え、いいのっ、って感じで片っ端から一杯ずつお店の人に杯に注いでいただき試飲する。大吟醸まで惜しげもなく試飲させてくれるとは島崎酒造さんは太っ腹だ。何杯もお酒を試飲させていただいて手ぶらでお店を出るのはしのびなかったが、ほろ酔い加減で『戻橋』が演じられる場所へとそぞろ歩く。



 いつもはクルマで通り過ぎるだけだった街も歩いてみると新鮮な発見がいっぱいだ。まず街の中心部一帯が昭和の匂いが濃厚な町並みが今でも残っていることに驚いてしまう。スタジオジブリのアニメのひとコマに出てきそうな雰囲気のあるレトロな建物がそこかしこに存在する。映画のロケ地としても良さそうだ、と思ったら実際映画が何本か撮影されてるらしい。

 少し広い通りに出たら、はっぴを着た大勢のヒトが「大山」を組み立てていた。『山あげ祭』は約450年前に源を発した国の重要無形民俗文化財にも指定されているお祭りだ。市内6町がそれぞれ毎年輪番で当番町になり、「戻橋」「梅川」「将門」など常磐津所作の野外歌舞伎を祭りの3日間、街の随所で繰り広げる。道路上に設置された演台から見て、その奥100メートルにわたり、大山・中山・前山などの舞台装置が組み上げられ奥行観のある舞台が堪能できる。一番のメインイベントは舞台で演じられる歌舞伎だが、知人によれば背景の舞台装置である「山」を組み上げる時と、他の演舞会場に移動する際の撤収・移動作業にこそこの祭りの神髄が見られるとのこと。演目がはじまる前に「大山」の組み立てから立ち上げにかけてじっくり見物することができた。竹で組んだ梁に木組みの枠に張り込んだ烏山特産の和紙に描かれた「山」のパーツを張り付け、何十人もの男衆が掛け声とともにそれを押し立てる。圧倒的な重量感を持った「山」が電柱などの高さを超えて立ち上がる様は圧巻だ。祭りの名前の由来はここにあると思い知った。

 

 開演とともに正面にまわり舞台「戻橋」を観覧。演目の進行にあわせ拍子木の音とともに可動式の装置で「山」の表情が変わっていく。限られた道幅と奥行きの長さとで、いかに「山」を配置するかが当番町の腕の見せ所らしい。微妙な「山」の配置角度など随所にこだわりがあるようだ。

 

 演目が終わった後は宴会タイム。お店に向かう途中に激しい調子のお囃子が聞こえてきた。広場で神輿を舞台に、叩き付けるようなビートのお囃子とそれにあわせ声をあげる男衆がいた。マツリだ祭りだ。祭りとともに成長してきた地元を持つヒトがうらやましい。久々に美味しい食事とお酒が堪能できた。Oさんありがとう。夜もかなり更けた帰り道、さきの島崎酒造のお店がまだ開いていた。土産に『東力士』を買って帰ったことは言うまでもない。