八溝ししまる

 穏やかな春の陽射しのもと、家の近所に仕掛けた罠の見回りに来た軽トラの後ろに見慣れぬ軽トラックが…。側面には“八溝ししまる”のロゴマーク。罠を仕掛けたのは町会議員でもある塚田さんで、今朝は違う場所の罠でイノシシがかかったのでイノシシ肉加工施設のトラックに回収を依頼してそのまま次の罠の見回りに同行してもらったとのこと。トラックの中に仕留めたばかりの30Kgクラスのイノシシが入ってると聞き、すかさず見学させていただいた。

 “八溝ししまる”は、2009年に設立された那珂川町のイノシシ肉加工施設で処理、流通されたイノシシ肉に冠される地域ブランド名。ちなみに八溝(やみぞ)とは、福島・茨城・栃木にまたがる山とそれに連なる福島県南部から茨城県や栃木県を南下して筑波山に至る山地をさす。温泉地でもある山間部の那珂川町では、温泉水を利用して海水魚のトラフグの養殖を淡水で成功させた“温泉トラフグ”がメディアにも取り上げられ徐々に知名度が上がってきており、“八溝ししまる”もこれから、という時に起きたのが昨年の原発事故。今は放射性物質の全頭検査の体勢も整い、4月からの新基準にも対応して出荷・流通させている。

 本来、鳥獣の狩猟期間は11月15日から翌年の2月15日までだが、イノシシは例外的に期間の延長がなされている。それだけ農作物の被害が甚大なのだ。窯焚きの最中の真夜中に屋外に出ると、わりと近い場所でブゴォブゴォとイノシシの気配を感じることがよくある。大家さんの刈り取りまじかの水田で数年前、ミステリーサークルの出来損ないみたいにイノシシに荒らされたこともあった。

 イノシシは里山の荒廃とともに人里におりてきてる、との話もあるがそれにしてもその気配の増加は尋常ではない。以前、どこかでイノシシの生息域が北端に延びたとの記事もあった。かつて日本にはオオカミがいた。生態系を乱した張本人は人間だが、どこかに日本オオカミがひっそり生存してて、生態系をもとに戻してくれたら、なんてことを身勝手に想像してしまう。