涙を読む人

 水戸芸術館に行ってきた。同館はコンサートホール、劇場、美術ギャラリーが併設された複合型芸術文化施設。水戸の周辺からも見える水戸のランドマークでもある高さ100mのART TOWER MITOが敷地にそびえ立つ。立地は水戸市街中心部。さすが徳川御三家のお膝元、芸術文化への取り組み方がひと味違う。

 現代美術ギャラリーでは「ゲルダ・シュタイナー&ヨルク・レンツリンガー
Power Sourcesー力がうまれるところ」が開催されていた。水戸に長期間滞在して制作された様々な素材を使ったインスタレーション作品が展示されている。なかでも面白かったのが『Tear Reader(涙を読む人)』。はじめて知ったが人の涙は雪の結晶のように結晶化したものを見ることができるらしい。しかもその涙を流したシチュエーションによって結晶の形が大きく変わるという。

 拡大プリントされた涙の結晶のパネルを興味深く見ていると、そばに顕微鏡が設置され来場者などから採取された涙の結晶を見ることが出来るようになっていた。かたわらには涙を採取したプレパラートが整理されそれぞれの涙の理由が記入されていた。興味はあっても知らない人の分泌物、のぞくか否か躊躇していたらスタッフの女性に丁寧な説明をいただいた。その女性にご自身の涙はこの中にあるか尋ねたところあるとのこと。見せてくださいとお願いしたら快くご自身のプレパラートを顕微鏡にセットしてくださった。のぞいてみると、花びらが幾重にも重なってパターン化されたようなきれいな結晶が見えた。涙の理由を尋ねたら最近亡くなったご友人を思って流した涙、とのこと。涙の結晶は採取1週間後くらいが見ごろのピークで1ヶ月くらいで消え始めるらしい。悲しい時に流した涙がきれいだと思うのは不謹慎かとも思ったが、きれいな涙とともに悼まれた人のことを思うと得心できた。涙を流して結晶のようにひと月くらいできれいに忘れ去ることのできることもあるが、できないこともある。同じ理由の涙をまた流せば同じ結晶が現れるのだろう。たぶん。きっと。